毎月の給与明細を見て、「社会保険料が高い」と感じることはないでしょうか。 私たちの収入の約10%(労使折半含む協会けんぽ平均)が健康保険料として徴収されています。
「これだけ払っているのだから、医療制度は盤石だろう」 「病院はさぞ儲かっているに違いない」
そう思いたくなる気持ちもわかりますが、公開されているデータを見ると、全く異なる景色が見えてきます。今回は、日本の医療費の「不都合な真実」と、その解決策について考えてみたいと思います。
1. 止まらない医療費の増加
まず、日本の医療費の全体像です。 少子高齢化と医療技術の高度化により、国民医療費は右肩上がりで増え続けています。今やその総額は48兆円規模。これは国の税収の半分以上に匹敵する巨大な金額です。

2. 私たちが窓口で払うお金は「氷山の一角」
病院の窓口で「今日は3,000円かかったな」と思う時、その背後にはもっと大きなコストが隠れています。 医療費全体の財源内訳を見てみましょう。

- 患者負担:約1割(病院窓口での支払い)
- 保険料:約5割(私たちや雇用主が毎月保険者(健保や国保)に払うお金)
- 公費(税金):約4割(国や地方の税金)
驚くべきことに、私たちが高いと感じている「保険料」だけでは医療費の半分しか賄えていません。足りない4割、金額にして十数兆円もの「税金」が投入されて、ようやく今の医療制度は首の皮一枚で繋がっているのです。
3. それでも病院は「儲かっていない」
「それだけのお金が流れているなら、受け皿である病院は潤っているはずだ」 そう考えるのが自然ですが、現実は真逆です。費目別の内訳を見ると、診療費(入院・外来)や調剤費(薬局)にお金が使われていますが、その経営実態は深刻です。

近年の調査では、全国の病院の約7割が赤字経営に陥っています。 物価高によるコスト増に加え、医師や看護師の不足、過重労働問題。日本の医療現場は、「経営難」と「疲弊」のギリギリの状態で、私たちの健康を支えてくれているのが現実です。
4. 「保険料を下げて」が解決にならない理由
この構造を知ると、安易な解決策が存在しないことがわかります。もし「手取りを増やしたいから保険料を下げてくれ」と主張すればどうなるか? 足りない分を補うために、消費税や所得税などの「税金」が上がるだけです。 では、「税金も投入するな」と言えば? 病院への報酬が削られ、すでに赤字の病院は倒産します。救急車が来ても受け入れ先がない、手術が数ヶ月待ちになる――そんな「医療崩壊」が待っています。
つまり、お財布(負担の項目)を変えるだけの議論では、何も解決しないのです。
5. 「国のため」ではなく「自分のため」のウェルビーイング
もちろん、国や自治体、保険者も決して手をこまねいているわけではありません。 データヘルス計画に基づき、特定健診の受診勧奨や重症化予防など、医療費適正化に向けたあらゆる施策が講じられています。
しかし、それでもなお、医療費の増加カーブを止めることはできていません。 支える側の保険料や税金負担は限界に達し、かといってコストカットのために医療現場を削れば、医療崩壊を招く。 これが、私たちが直面している「逃げ場のない現実」なのです。
この状況を打破する唯一の方法、それは「私たち自身が健康になること」です。 ここで誤解していただきたくないのは、「国の医療費を削減するために、みんなで健康になりましょう」などと言いたいわけではない、ということです。
健康になるのは、あくまで「私たち自身」のためです。私たちが意識すべきは、お金や時間の使い道を「事後処理」から「未来への投資」へとシフトさせることです。
投資とは、決してお金だけの話ではありません。「時間」を使うこと、それもまた立派な投資です。病気になってから治療費を払い、通院や療養に貴重な時間を奪われる(マイナスのコスト)。 そうではなく、健康であり続けるためのお金と時間を、今のうちに使う(プラスの投資)。
日々の食事に気を配り、運動のために時間を割き、定期健診を受ける。 もちろん、どれだけ気をつけていても病気になることはあります。 だからこそ、異変を感じたら忙しくても時間を割いて早期受診をする。この判断もまた、自分への投資です。
そうして自分自身のリソース(お金と時間)を大切にすることではじめて、真のウェルビーイングは実現します。 結果として、国の医療費削減や社会課題の解決に繋がることもあるでしょう。 しかし、それはあくまで副次的なもの。 一番大切なのは、他の誰でもない、私たち自身の人生なのです。
とはいえ、現実はそう簡単ではない
もちろん、「健康が大事」なんてことは誰もが分かっています。分かっていても、つい不摂生をしてしまうのが人間というものです。「正しいこと」が必ずしも「できること」ではありません。 頭では理解していても、行動を変えることは非常に難しい。そこには意思の力だけでは解決できない、人間の本質的な弱さや、社会環境の問題が潜んでいます。
精神論や我慢ではなく、どうすれば私たちは「自然と」ウェルビーイングな選択ができるようになるのか。 個人の意志を超えたこの問いこそが、医療費問題、ひいては社会課題を解くための「本質的課題」であり、最大の「糸口」ではないでしょうか。
その具体的なアプローチについて、これからも思考を止めることなく、深く検討を続けていきたいと考えています。
